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自動化とAIが導く「拡張労働力」の世界

AIが人に取って代わることはない。AIを利用する人が、利用しない人に取って代わるのだ。

人工知能(AI)がその知能指数(IQ)を高める中、経営層はAIが企業にもたらす影響にどう対処すべきかに苦慮しています。ChatGPTの華々しい登場など、AIの急速な発展は、従来のビジネスモデルを覆し、仕事の未来を一変させるでしょう。

AI時代の到来を受け、組織の再編成とリスキリングを急ぎ、スキルと専門性の新陳代謝を図ろうとする動きがビジネス・リーダーに出ています。採用活動に力を入れ、次世代の人材を多数獲得することでスキル不足に対処しようとしているリーダーもいます。しかし、こうした短期的な戦略では、迫り来る大きな課題には対処しきれません。すなわち、従業員が今、従事している業務の多くが、将来的に企業から必要とされなくなるということです。

AIの登場で「拡張労働力(augmented workforce)の時代」が到来しています。人間と機械のパートナーシップを通じ、ビジネス価値が飛躍的に高まる時代です。

AIとインテリジェント・オートメーションが発達した結果、人間と機械による新たな分業の形が生まれています。世界経済フォーラム(WEF)の予測によれば、この技術革新に伴って2020年から25年の間に世界中で8,500万人の雇用が影響を受けます。半面、9,700万人分の職務が新たに創出される見込みです。この急激な変化は新時代の到来を告げており、当社は「拡張労働力の時代」と呼んでいます。人間と機械のパートナーシップによって生産性が向上し、ビジネス価値が飛躍的に高まる時代です。

しかし、この変化は世界的にスキル・ギャップも広げています。WEFの予測では、労働者スキルの44%が23年から28年の間に見直しを迫られる見込みであり、この数字は前回の5カ年予測から9ポイント増加しています。生成AIはこの数字をさらに押し上げる可能性があります。「IBM Institute for Business Value(IBM IBV)」が最近実施した調査では、経営層の5人に4人が、生成AIによって従業員の役割とスキルが変化するだろうと回答しました。生成AIの影響はどの階層の従業員にも及びますが、パフォーマンスの低い従業員が最も大きな変化に見舞われると見込まれています。

 

生成AIの影響を最も強く受けるのは次世代の従業員だと経営層は予想している。

経営層は、生成AIが若手社員に最も影響を与え、上級管理職は最も影響を与えないと予想している。

 

「未来」型の企業を目指す

AIが進化し続けるにつれ、役員・管理職クラスを含む全階層の利害関係者へますます大きな影響を及ぼしていくでしょう。どの階層もこの影響を免れることはできません。経営層は職務やスキル・セット、仕事のやり方について再考を迫られるでしょう。

今、何が変わろうとしていて、経営層はどのように対応するべきなのでしょうか。この答えを導き出すため、当社は2つの大規模調査を実施しました。1つは世界28カ国の経営層3,000人を対象とした調査で、もう1つは22カ国の従業員2万1,000人を対象とした調査です。


今回の調査から、「視点の転換」がビジネスの成功につながりやすいということが分かりました。拡張労働力の時代にあって、トップクラスの業績を誇る組織の経営層は、技術革新を活用した新たな働き方を反映させる形でオペレーティング・モデルを進化させています。

企業変革を推進する最大の手段としてオペレーティング・モデルを位置付ける企業は、収益性や収益成長率、イノベーション、従業員エンゲージメントにおいて他社を上回る成果を上げています。

オペレーティング・モデルを刷新している組織は、AIテクノロジーを中核に据えることで、他社より優れた成果を上げています。企業変革を推進する最大の手段として同モデルを位置付ける企業はこの3年間、収益性や収益成長率、イノベーション、従業員エンゲージメントにおいて他社を上回る成果を上げています。こうした企業は全体として「競合他社より高い実績を上げている」との回答が、スキルを企業変革の主要手段と見なすグループより44%多かったのです。

これらの企業は、時代遅れのモデルにイノベーションをただ施すのではなく、ビジネスを最も本質的な要素に分解し、イノベーションを核にオペレーション全体を一から再構築しているのです。ただ、こうした取り組みを本格的に行っている組織は多くありません。いったん白紙の状態に立ち返って進歩の手段を探そうとするよりも、日々行ってきた業務をそのまま自動化することを選択しているのです。

部分的な見直しでも効率が上がることはあるでしょうが、ビジネス・プロセス自体に問題があれば、自動化や最適化をしたところでその解決にはつながりません。経営層は、自動化を既存のワークフローに合わせて後付けして定型作業の処理に使うだけではいけません。生産性を実際に高めて今まで以上に魅力的な職場環境を作るために、オペレーティング・モデルを分析し、必要となる基本的な要素を明らかにするべきです。

プロセス自体に問題があれば、自動化したところでその解決にはつながりません。生産性を実際に高めるためには、ビジネスを本質的な要素に分解しなければなりません。

当社は調査結果に加え、現場経験も踏まえて、変化の激しい時代に経営層が拡張労働力を主導する上で有用なフレームワーク(枠組み)を構築しました。さらに、経営層が従業員の能力を強化し、競争力を高める上で効果的な重点対策として以下3点を特定しました。
 

  • 従来のプロセスや職務、組織構造を変革することで、生産性の向上を図り、仕事の新たな性質を反映させたビジネスモデルやオペレーティング・モデルを実現します
     
  • 人間と機械のパートナーシップを構築することで、価値創出を高め、問題解決や意思決定の力を強化します。さらに、従業員エンゲージメント(組織と従業員相互の信頼・貢献)を向上させます
     
  • テクノロジー投資を通じて、時間をかけずに価値の高いタスクに従業員が専念できるようにし、収益成長を促します


今のうちから人材トランスフォーメーションに注力すれば、将来、従業員による業務処理を一段と円滑化することができます。AIと自動化は従業員の能力をどのように高めるのか。どうやって人間の高い能力を最大限引き出し、長期にわたる競争優位をもたらすのか。本レポートはこうした点について解説しています。ぜひダウンロードしてご一読ください。


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著者について

Jill Goldstein

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, Global Managing Partner for Talent Transformation, IBM Consulting


Bill Lobig

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, Vice President, IBM Automation Product Management, IBM Technology


Cathy Fillare

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, Talent Transformation Global Research Leader, IBM Institute for Business Value


Christopher Nowak

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, Managing Research Consultant, IBM Institute for Business Value

発行日 2023年8月11日